【著者】絓 秀実
【判型】四六判上製
【頁数】474頁
【定価】本体3,500円+税
【コード】ISBN978-4-906738-07-6
【カバー・表紙写真】北島敬三「根室半島 2009」「新宿御苑(大喪の礼)1989」
反資本主義へ!
日本資本主義論争をへて、小林秀雄、中村光夫、吉本隆明、柄谷行人らの文学史観をつらぬく「天皇制」の問題。
公共性/市民社会論、「新しい社会運動」、文学、映画、アート……
さまざまな「運動」は、なぜかくも資本主義に屈してしまうのか。
排外主義が跋扈する現在、これまでの思想・言説を根底から洗い直し、闘争のあらたな座標軸を描く。
日本文芸批評に伏在する「天皇制」をめぐる問題を剔出する表題作(新稿)、
市民社会派に内在する「暴力」の問題をあぶり出す論考(新稿)のほか、23篇のポレミックな論考を所収。
【著者より】
1920年代後期から30年代に、「日本資本主義論争」と呼ばれる議論があった。その規模と影響力の広さにかんがみて、これは、近代日本の思想史上でも最大級の論争であった。
そして、そこで議論された――「日本」というに限らぬ――資本主義への問いは、今なお、われわれの思考を、ある面で規定している(…)。
日本資本主義論争は、いまだ天皇制が焦眉の問題であり、資本主義が社会主義・共産主義によって超克されることが信じられていた時代における論争であった。
本稿では、この論争が今なおわれわれの歴史認識を規定していることについて、主に、小林秀雄、中村光夫、柄谷行人らの有力な文学史観を参照しながら論じる。
――第Ⅰ部「天皇制の隠語」より
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【目次】
第Ⅰ部 天皇制の隠語
天皇制の隠語――日本資本主義論争と文学
1 日本資本主義論争の「現在」
2 小林秀雄における講座派的文学史の誕生
3 中村光夫と天皇制
4 「労農派的」転回とコモンウェルス
暴力の「起源」――村上一郎と市民社会派マルクス主義
第Ⅱ部 市民社会の変奏
幻想・文化・政治――今なお不可視化されている「下部構造」について
資本の自由/労働の亡霊
市民社会とイソノミア
「プレカリアート」の食
世界資本主義下のベーシック・インカム
第Ⅲ部 文学の争異
フィクションの「真実」はどこにあるか――キャラクター小説と1968年
陳腐な「悪」について
下流文学論序説
フォルマリズムは政治を回避できるか――書評・渡部直己『日本小説技術史』
断固とした詩的決断主義を宣言したロマン的イロニーの書――福田和也『日本の家郷』解説
女たちの欲望と「大逆」――書評・福田和也『現代人は救われ得るか』
「沢山」からゼロへのフェティシズム的転回――小川洋子小論
「私小説から風俗小説へ」とは何か?――角田光代小論
アヴァンギャルドと社会主義リアリズムの狭間で――蔵原惟人の可能性
「『敗北』の文学」の結論――追悼 宮本顕治
中上健次とともに――追悼 荒岱介
第Ⅳ部 感覚の政治学
百年の孤独を生きる、現代の「危険な才能」――つかこうへい/神代辰巳/中上健次とショーケン
映画とあること、革命家であること――太陽肛門スパパーン『映画「ラザロ」オリジナルサウンドトラック』解説
退けられた「中国人」の表象――大島渚監督『アジアの曙』
「いざ、生きめやも」とはなにか――宮崎駿監督『風立ちぬ』
万国博覧会と癌(cancer)――大阪から愛知への芸術=資本主義の変容
「太陽の塔」を廃炉せよ
【略歴】
絓 秀実(すが・ひでみ)
文芸評論家。
1949年新潟県生まれ。2002年より現職。
著書に、『反原発の思想史』『1968年』(以上、筑摩書房)、
『吉本隆明の時代』『革命的な、あまりに革命的な』『JUNKの逆襲』(以上、作品社)、
『詩的モダニティの現在』(論創社)、『「帝国」の文学』(以文社)、『日本近代文学の〈誕生〉』(太田出版)、
編著に『津村喬精選評論集』(論創社)、『ネオリベ化する公共圏』(明石書店)など。